イノベーション&リノベーションシティをめざすコロラド州デンバー(2) 古い建物のリノベーションと集客施設の立地、街中居住の促進で賑わいを生み出す
デンバーでは、職住分離から職住同所へと、都市計画の考え方を変えつつあります。モータリゼーションの発展したデンバーでは、郊外の住宅地から中心部のオフィス街へ車で通勤するのが当たり前の都市で、行政もそうした都市計画を進めてきました。しかし、近年は、中心部で積極的に集合住宅を整備しています【写真1】。
職住同所による街中居住は、住む人の利便性だけでなく、街の賑わいも高めます。モータリゼーションの盛んな地域で、職住分離が進むと、街中の商業施設や集客施設は、夜間と休日に閑散となります。これら施設は、平日と休日等で集客が異なるため、稼働率(採算性)が低下します。一方、郊外の施設は、平日日中の集客が少ないという問題を抱えています。街中居住が増えれば、施設の集客力は自ずと高まります。
デンバーは、街中居住の促進と合わせて、集客施設の街中立地を進めています。代表的な事例は、メジャーリーグ・ロッキーズのスタジアムです。建設地を郊外にするか、街中にするか議論し、街の賑わいを創出する観点で、ユニオン駅近くの街中に建設されました。
同様に、3つの大学がデンバー市街地に立地しています。デンバー都市圏大学、コロラド大学デンバー校、デンバーコミュニティ大学の3大学が、敷地を共有し、デンバー中心部に隣接しています。もっとも賑わう繁華街のモールからは、500m程度の徒歩圏内です。このように、異なる学校が敷地を共有しつつ、利便性の高い街中に立地することは、土地の限られている日本のまちづくりでも参考になります。
デンバーでは、このような街中居住・立地を進める際、既存の古い建物をリノベーションして、再活用することを積極的に推進しています。デンバーの中心部には、レンガ造の古い建物が数多く残っていて、街の荒廃の象徴となっていました。それらを再生し、オフィスや商業施設、住宅などとしているのです。日本の大都市ならば、更地に戻して、高層ビルやタワーマンションになってしまうでしょう。
リノベーションによる再活用は、新築に比べて賃料をそれほど上げずに済み、オフィスや店舗の街中集積も促進しています。代表例は、ユニオン駅の駅舎です【写真2】。鉄道業務の縮小に伴って生じた空スペースに、ホテルやカフェなどが出店し、賑わっています。駅近くの工場は、地ビールを提供するレストランになりました【写真3】。同様の事例は、中心市街地のあちこちで見かけることができます【写真4】。
つまり、起業家にとって重要な要素が街中に揃っているわけです。デンバーには「手頃な賃料のクールなオフィスと住居」「美味しくて居心地のいいカフェとレストラン」「様々な専門家とラボへのアクセス」「若くて優秀な若者」が豊富にそろっています。
【写真1】デンバー中心部の集合住宅(撮影:田中信一郎)
【写真2】デンバー・ユニオン駅(撮影:田中信一郎)
【写真3】ユニオン駅近くの地ビールレストラン(撮影:田中信一郎)
【写真4】ユニオン駅近くのリノベーションされた元工場(撮影:田中信一郎)