老朽化による建替え・改修の公共施設には、パリ協定対応が必須
公共施設も重要なインフラですが、全般的に老朽化が進んでいます。【図表】は、市区町村が保有する公共施設の延床面積の推移で、2020年には約3分の1が築50年、約半分が築40年以上の施設ということになります。
そのため、全国の自治体で現在、多くの公共施設の新築、建替え、改修が進行中です。まだ構想段階というレベルもあれば、既に工事が進んでいるという施設もあるでしょう。いずれにしても、2020年前後、公共施設の工事が全国で行われることになります。
どうしても工事しなければならないであれば、建設コストだけでなく、維持管理コストも抑えたいものです。建設コストが安くても、維持管理コストが高く、大規模改修が頻繁に必要な建物であれば、税金を浪費することになります。
環境配慮に加え、維持管理コストを抑える観点から注目されているのが、ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング)です。公共施設の空調や照明、給湯設備を高効率のものとし、太陽光発電などの再生可能エネルギー設備を備えて、エネルギー消費量と生産量のトータルでゼロ化します。
けれども、ZEBには、維持管理コストが意外にかかるという、大きな落とし穴があります。なぜならば、おおむね空調等の設備は10年、再エネ設備は20年で更新時期を迎えるからで、それらを大規模に導入していれば、その都度、大きな額の更新費用が必要になります。
しかも、今世紀後半までに化石燃料の使用をほぼ止めるという「パリ協定」を批准しているため、公共施設のゼロエネルギー化は避けられない道です。これから新築、建替え、改修する公共施設は、おそらく今世紀後半においても使用しているでしょう。30年程度での建替えを想定していた現在の公共施設ですら、40年、50年と使い続けているのです。2020年頃から使い始める公共施設ならば、2100年まで使っても不思議でありません。
これからの公共施設で必須なのは、今後の維持管理・大規模改修コストの抑制と、ゼロエネルギー化を両立させる設計です。光熱費と設備更新コストをギリギリまで抑えるとともに、化石燃料に依存しないシステムにしておくことです。
それには、建物の躯体において、断熱・気密・日射コントロールを徹底的に施しておくしかありません。躯体の性能で、できる限りゼロエネルギー化(ニアリーゼロ設計)し、残余のエネルギーについて、高効率の消費機器と再エネ設備で補うのです。
EUでは、2019年以降に新築する公共施設について、ニアリーゼロ設計が求められています。日本でも早晩避けられず、自治体にはそれを見越した公共施設の整備が求められます。
【図表】市区町村保有の主な公共施設の延べ床面積の推移(総務省「公共施設等の総合的かつ計画的な管理による老朽化対策等の推進」)