人口は虫食い状態で減少し、インフラ網を蝕む
人口減少は、地図上で見ると、虫食い状態で進行します。過疎地域や人口密度の薄い都市周縁部から徐々に、秩序だって減るのではありません。ランダムに居住者がいなくなり、オフィスがなくなり、工場・商業施設が撤退していくのです。
その理由は様々であるため、自治体が何もせずに整然と進行することはありません。居住者の死亡であったり、住宅の老朽化であったり、オフィス面積の縮小であったり、海外への工場移転であったり、採算性の悪化による撤退であったり、人の流れが変わったことによる閉鎖であったりと、個別の理由は異なります。
一方で、都市域はわずかずつですが拡大しています。未だに住宅が年間100万戸弱、新築されています。そのすべてではありませんが、一部が田畑等を転用した新たな都市域に新設されています。そうした建売住宅は、地方都市でも珍しくありません。
そのため、自治体やインフラ事業者は、新たなインフラを整備しつつ、既存のインフラを維持する必要に迫られています。そうなると、一人当たりのインフラ量(面積・距離)は、伸びるばかりです。当然、維持管理コストもそれだけ増えていくことになります。
問題は、維持管理コストの不足による既存インフラの機能損失です。道路は99%を維持していても、要となる場所で1か所、陥没が起きれば、インフラ網としての機能を失います。水道管やガス管も同様です。橋は、数本のボルトが腐れば、通行禁止になります。それだけで、両岸を行き来する交通は混乱するでしょう。
既に、維持管理費の不足による機能損失は顕在化しています。国土交通省の調査によると、2013年4月時点で、全国の232か所の橋が通行禁止、1148か所の橋が通行規制の状態になっています。2023年には、全国約70万橋のうち43%が建設後50年を経過する見通しです。機能損失がさらに広がると懸念されています。
これは、インフラの機能損失が、人口減少と同様に、虫食い状態で進むことを意味しています。老朽化したインフラが、都市周縁部にのみ存在しているわけではなく、あちこちに点在しているからです。【図表】は、維持管理費が不足した場合のインフラの機能損失と人口減少の進行を概念として示したものです。
虫食い状態でのインフラの機能損失は、その地域の生活・経済の利便性を直接的に損ない、さらなる人口と企業の流出・撤退を助長します。そして、インフラの維持管理費をさらに不足させ、インフラの機能損失を進行させます。
このスパイラルに陥ったら、抜け出すのは極めて困難です。
【図表】インフラの機能損失と人口減少(田中信一郎作成)