冬に多く、夏に少ない死因
循環器系疾患の死亡率は、冬に増加し、夏に減少します。これは、寒い時期の急激な温度変化により、血圧の乱高下が発生し、血管の拡張・収縮の動きが追いつかないために、血管詰まりを起こすことが一因です。例えば、暖かい部屋にいる人が、薄着のまま寒い場所に出たり、寒い場所に薄着でいた人が、体温よりも熱い場所にいきなり入ったりして、発生しやすくなります。
冬に循環器系疾患を発症しやすい場所の一つが、お風呂です。冬の入浴では、20度の居間にいた人が、0度の脱衣所で服を脱ぎ、40度の湯船に入るというようなことをします。そこで、心筋梗塞や脳梗塞を起こしてしまう現象は「ヒートショック」と呼ばれます。朝日新聞によると「東京都健康長寿医療センター研究所の推計では2011年に約1万7千人が入浴中にヒートショック関連で死亡。約8割が65歳以上」とのことです。
冬に多い死因には、循環器系疾患の他、肺炎や不慮の事故があります。図表1は、主要な死因の月別死亡数です。これを見ると、がんには大きな季節変動が見られないのに対し、循環器系疾患(心疾患・脳血管疾患)、肺炎、不慮の事故に季節変動が見られます。季節変動は、いずれも冬に多くなり、夏に少なくなるものです。
不慮の事故の内訳では、窒息と溺死に大きな季節変動が見られます。図表2は、不慮の事故の死因別内訳です。交通事故や転倒・転落には季節変動が見られず、窒息と溺死が不慮の事故の季節変動をもたらしていることが分かります。冬に窒息死が増えるのは、室温の低さによって食べ物が固くなり、のどに詰まりやすくなるためと考えられます。冬に溺死が増えるのは、循環器系疾患に伴う、風呂での出来事(血管が完全に詰まる前に溺れてしまえば溺死と判断される)と考えられます。
さて、交通事故対策には、国とすべての自治体、そして警察が積極的に取り組んでいます。国では、内閣府で交通事故対策を取りまとめていますし、多くの自治体では、担当係や担当者を置いています。その交通事故ですが、様々な対策が功を奏して、年間に亡くなる人は減少傾向にあり、近年は5千人から6千人の間で推移しています。
一方、ヒートショック対策には、国も自治体もほとんど取り組んでいません。そもそも、ヒートショック対策の必要性について、行政内に共通認識すらありません。現在、国土交通省が医療や建築の専門家を集めて、調査研究を行っている段階です。
ヒートショックによる死亡は、入浴中によるものだけで、交通事故による死亡の約3倍と考えられています。先の記事では、2011年に約1万7千人の死亡と推計されていましたが、同年の交通事故死は6,741人(人口動態統計による)でした。入浴中以外も含めた季節変動の死亡は、もっと多くなりますが、行政による対策はほとんど行われていないのです。
【図表1】主要死因の月別死亡数(対10万人)(厚生労働省「人口動態統計2016年」を元に作成)
【図表2】不慮の事故の月別死亡数(対10万人)(厚生労働省「人口動態統計2016年」を元に作成)