地方から都市に流入する高齢者
全国的に見れば、高齢者数は増加し続けますが、一部の地方は既に減少・横ばい状態になっています。例えば、長野県天龍村(約1,600人)は、1980年以降総人口が減少し続け、65歳以上の人口も2005年をピークに減少へ転じています。同様に、既に高齢者数すら減少に転じている市町村は、地方圏に多数あります。また、都市と農山村を抱合する広域レベルで見ても、一部の県は高齢者数が横ばい傾向になっています。図表は、長野県の長期人口推移です。「将来展望」は対策の効果を加味した想定、「社人研準拠」は現状のまま推移した想定です。いずれの数字でも、65歳以上の人口が2020年頃から横ばいになっています。中高年の移住者に人気の長野県ですら、こうした想定ということは、多くの地方においても同様と考えられます。
高齢者の総数が増加する一方、地方で減少・横ばいということは、多くの高齢者が大都市に流入していることを意味します。東京都の「人口ビジョン」は、2010年に265万人だった65歳以上の人口が、ピークの2050年までには440万人に増加すると見込んでいます。しかも、2010年の122万人だった75歳以上の人口はその後も増加を続け、ピークの2055年に261万人に達すると想定しています。
地方の高齢者が地方から都市に流入しているのは、それを促す2つの社会構造があるためです。第一に、都市に居住する子ども世帯が地方の親世帯を呼び寄せる構造です。子ども世帯は、仕事や生活の必要から都市に住まざるを得ず、親の生活支援と両立させるために、親の居住地を移すわけです。第二に、地方の不便さから高齢者自ら都市に移る構造です。多くの地方では、自動車を保有・運転できなければ、買い物などの日々の生活すら困難に陥るため、自動車による移動が難しくなった高齢者は、生活の不便さを甘受するか、都市に移るかの判断を迫られます。これらの社会構造が変わらなければ、地方から都市への高齢者の移動は、今後も続くと考えられます。
さて、自治体レベルで見た高齢者数の減少・横ばいが、医療費・介護費の減少・横ばいを、そのまま意味するわけではありません。なぜならば、年齢によって医療・介護リスクは異なり、高齢者の総数が減少しても、リスクの高い年齢の人口が増えれば、医療費・介護費が増えることになるからです。
そのため、自治体で医療政策・介護政策を企画する際には、年齢別の人口を細かく推計し、分析する必要があります。年齢別の一人当たり医療費・介護費を掛け算し、現状推移の長期想定を示すわけです。それが、政策や財政、施設整備の基礎になります。
残念ながら、全国の自治体で策定された「人口ビジョン」では、そこまでの分析がされていません。一方、その分析がなければ、的確な対策を打ち出すことができないので、今からでも分析を行う必要があります。
【図表】長野県の長期人口推移(1920年~2100年)(長野県「信州創生戦略」)