貧困世帯から資産世帯、そしてサブリース企業への所得移転
貧困世帯が民間の賃貸住宅に住むということは、貧困世帯から資産世帯への所得移転を意味します。ここでは、資産世帯について、自らの居住に用いない土地や家屋を所有する世帯のことを指します。賃貸住宅の居住者は、大家である資産世帯に対して毎月の家賃を支払いますが、それを資産世帯から見れば、毎月の不労所得を得ることになるからです。
たいていの民間の賃貸住宅は、投資を目的として建設・運営されています。できる限り建設費や維持管理費をかけずに、できる限り多くの家賃収入を得ることが目的です。不足する住宅や良質な住宅を供給することが目的ではありません。よって、見た目はきれいでも、劣悪な質の住宅が供給されやすい構造にあります。とりわけ、断熱性・気密性などの見えない性能は犠牲にされやすいといえます。
こうした資産世帯を対象として、賃貸住宅の建設・運営を請け負う企業がいます。土地の所有者に対し、賃貸住宅の建設・運営・メンテナンスから、金融機関からの資金調達までをパッケージにして、営業しています。入居者の募集を含め、何から何まで企業が請け負ってくれるため、土地所有者の大家は楽々です。一方、企業からすれば、借金や空室といったリスクは、大家が負担してくれるため、確実なビジネスモデルとなります。
最近では、空室のリスクを引き受ける企業まで現れました。賃貸住宅の建設後、全室を企業が一括して長期借り上げし、空室でも家賃を支払うという契約です。サブリース契約と呼ばれます。企業は、賃貸住宅の建設請負である程度の利益を確保しているため、サブリース契約のリスクを吸収できるといわれています。一見すると、賃貸住宅に入居する世帯からの所得を、資産世帯とサブリース企業で分け合うかのようなビジネスモデルです。
ところが、サブリース契約には、資産世帯からサブリース企業への所得移転の側面があります。賃貸住宅の入居率が悪いと、サブリース企業が一括借り上げする家賃を下げられてしまうためです。資産世帯とサブリース企業の関係は、法律上、大家と店子になります。店子のサブリース企業は、入居率が悪い場合、借地借家法に基づき、家賃の減額を求めます。求めに応じないと、メンテナンスや入居者募集の代行契約を打ち切ることをちらつかせ、強引に家賃を減額させます。そうすると、資産世帯の大家は、建設時の借金の返済計画が狂って赤字になり、資産を手放さなければならない事態に陥る場合もあります。こうなると、借金の分だけ、資産世帯からサブリース企業に所得移転されることになります。
国では、消費者問題の観点から不動産のサブリース契約に注目していますが、自治体では、まちづくりや貧困対策の観点から、この問題に本腰を入れて取り組む必要があります。図表は、長野県の事例ですが、人口減少にもかかわらず、全国的に不便な場所での住宅建設が進んでいます。そうした都市域の膨張や貧困の拡大の背景の一つには、このサブリース問題があるのです。
【図表】長野県における最寄りの医療機関・交通機関までの距離別住宅数(長野県「信州創生戦略参考資料」)