ひとり親・子どもの貧困対策は人口減少の影響緩和に多面的な効果
人口減少の影響を緩和する観点で、貧困対策のなかでも、より多面的な効果を期待できるのが、子どもの貧困対策です。子どもの貧困対策とは、親の所得と、子どもの生育環境や教育環境の関係を切り離す政策です。親が金持ちでも貧乏でもどのような状態でも、すべての子どもに対して、充分な知識や体力、考える力を得る機会を、社会としてできる限り提供することです。
まず、高い需要喚起の効果を期待できます。子どものいる世帯は、そうでない世帯よりも高い購買意欲を持っているため、その所得が増えれば、需要を効果的に刺激します。ひとり親世帯であれば、全般的に所得が低いため、貧困対策がより効果的な需要喚起につながります。
子どものいる世帯の大変さ、ひとり親世帯の苦しさ、子どもの貧困の主因は、日本の子育て費用が私費負担原則になっているためです。図表は、子育て費用の私費・公費の別です。古い調査になりますが、子育て費用の総額は約50兆円で、そのうち私費負担が30兆円を占めています。子育て世帯は、いくらお金があっても足りないということは、当事者の実感だけでなく、この調査からも明らかです。
次に、社会全体の出生率向上が期待できます。親の所得と子どもの環境を切り離すには、子育て費用を社会負担原則に変える必要があります。ブログ「出生率上昇でも人口のV字回復は見込めない」の図表で示したとおり、子育て・教育費用の私費負担が、出産の最大の壁になっています。これを社会負担原則に変更すれば、多くの人々の出産意欲を喚起します。
さらに、社会全体の価値増加が期待できます。貧困世帯の子どもは、成長の潜在力を十分に発揮できない構造のなかに置かれています。経済状態という制約を外されれば、潜在力を発揮して、将来、多くの価値を生むことになります。人口減少は、社会全体で生む価値の総量を減少させますので、一人当たりの生む価値を増やすことが重要になります。子どもの貧困解消は、それにつながるのです。
現在、日本の子どもの貧困率は、先進国のなかでも高い状態にあります。前回のブログ「人口減少で重要性を増す貧困対策」で示したとおり、子どもの貧困率は13.9%、ひとり親世帯の貧困率は約50%です。朝日新聞(2017年6月27日夕刊)によると、OECD諸国の平均13.2%を上回り「デンマークの2.7%や韓国7.1%などに及ばず、主要36カ国で24位にとどまる」とのことです。
ひとり親・子どもの貧困対策は、社会全体で見れば、非常に有益な投資です。ただ、市場を通じた投資がなされにくい分野であるため、行政を通じた資金配分が重要になります。
【図表】分野別にみた子育て費用総額(18歳未満)(内閣府「平成17年版少子化社会白書」)