雇用のミスマッチとトレーニング
民需での人手不足は、企業へのアンケートでも明らかになっています。長野県の調査(8頁図2-4)で、計画どおりに従業員を採用できなかった企業に対してその理由を尋ねたところ、7割を超える企業が「充分な人数の応募がなかった」と回答しました。そもそも応募数が足りないというのは、人手の過剰でなく、不足の状態だからです。
この人手不足は、技能のミスマッチによって、深刻さを増しています。図表は、2015年7月の職業別の求人・求職の状況です。これを見ると「専門的・技術的職業」で、企業に人手不足が起きていると分かります。一方、高度な技能を比較的求められない「事務的職業」では、人手過剰が起きています。
過剰な職業分野から不足する職業分野へ、人手の移動が起きれば、人手不足を緩和することができます。逆に、人手不足だからといって移住者を呼び込んでも、不足する職業分野の知見・技能を持っていなければ、人手不足は解消しません。
ただし「専門的・技術的職業」に就くためには、特別な知見や技能が必要とされます。職業によっては、大学や専門学校などでの知見・技能・資格の習得がなければ、採用されないものもあります。そうした仕事に、まったくの未経験者が採用されることはありません。一方、医師のように、その分だけ賃金が高かったり、待遇が良好であったり、雇用が安定したりするわけです。
問題は、いったん社会人になった後、そうした特別な知見や技能を身につけることが、個人の努力で困難なことです。大学や専門学校で学び直すとなれば、数年にわたる期間と多額の学費が必要になります。その間の生活費と学費は、個人で負担しなければなりません。仕事をしながら夜間・土日に学び直そうと思っても、大都市を除けば、社会人向けに夜間・土日に開講している大学などはほとんどありません。
つまり、職業転換のトレーニングは、個人責任となっている一方、大都市以外では、個人責任の覚悟と資金をもってしても困難なのです。職業転換のトレーニングを社会の課題と原則変更し、トレーニング環境を整えることが早急に求められています。
OECD諸国と比較すれば、この分野での日本の公的支出の少なさは、突出しています。2015年度の労働市場への支出(対GDP比)を比較すると、日本の0.32%に対し、トップのデンマークは10倍の3.33%、2位フランスが2.98%、3位フィンランドが2.94%となっています。日本と比較されやすいドイツは1.51%です。ちなみにアメリカは0.28%です。
さて、図表には「サービスの職業」や「運搬・清掃等の職業」など、他の職業分野でもミスマッチが起きています。これらには別の課題がありますので、次回に説明します。
【図表】職業別の新規常用求人・求職の状況(長野県「信州創生戦略参考資料」)