長期的に定常社会を目指す
「人口減少を認める道」は、人口減少を容認して放置することではありません。当面の人口急減が避けられないことを認めた上で、それでも住民の暮らしと地域の経済が破たんしないように手を尽くす政策路線です。むしろ、現実もしくは近い将来に現実となる地域課題と真正面から格闘する、徹底的な現実主義です。
住民の暮らしを考えれば、ある程度の範囲に、ある程度の社会サービスを提供する施設を維持しなければなりません。図表は、社会サービス施設を維持するため、どれだけの人口を要するか、示したものです。普段は小さな診療所に通うとしても、いざという時には大きな病院で高度な医療を受けたいものです。高度医療は、かかる患者数が少ないため、かなりの人口がいなければ維持できません。広範囲で人口減少が進んでしまえば、高度医療を維持できなくなってしまい、ますます人口減少を加速させることになってしまいます。
そのため「人口減少を認める道」であっても、人口を確保するための政策は必要です。政策効果の打消しを防ぐため、「人口増加を目指す道」は当然のこと、「人口減少を認める道」でも、最低限、次の課題に対して国と自治体が協力して取り組まなければなりません。
① 若者の結婚と出産を阻む社会的な要因を解消すること 解消すべき社会的な要因は、低所得・長時間・不安定の労働環境、人間関係がタコツボ化しやすい社会環境、高家賃・低質・職住遠離の住宅環境、高料金・遠距離・デジタルディバイドの移動・通信環境、費用・時間・苦労の集中する子育て環境などです。
② 大都市への人口集中を加速する政策的な要因を解消すること 解消すべき政策的な要因は、大都市の容積率緩和と再開発への投資、大都市での新規住宅開発と用地供給、大都市を会場にする大規模な国家イベントと財政投資、国際的に高いレベルにある大学の大都市集中などです。
③ 地域間移動の流動性を阻む構造的な要因を解消すること 解消すべき構造的な要因は、地域間移動における公共交通料金の高さ、マイカーを必須とする地方都市・農山漁村の移動環境、若者・女性・新参者の参画を好まない地域の意思決定、国内外の多様な文化や個性を差別・排撃する文化などです。
「人口減少を認める道」は、21世紀後半からの人口の安定化、すなわち長期的に定常社会を目指すこと道なのです。歴史的に見れば、江戸時代のような定常社会は珍しいことでありません。むしろ、近現代のような人口急変社会の方が珍しいのです。
そして、その定常社会を持続可能な社会としていくことは、決して後ろ向きの発想でなく、前例のない新しい社会を創造するという、パイオニアの道なのです。
【図表】サービス施設の立地する確率が50%及び80%となる自治体の人口規模(国土交通省「国土のグランドデザイン2050参考資料」)